国立医学部目指してみる人は②

医学生へ  「医学を選んだ君に問う
前金沢大学医学部附属病院長 河崎一夫さん

君に問う。人前で堂々と医学を選んだ理由を言えるか?


万一「将来、経済的に社会的に恵まれそう」以外の本音の理由が想起できないなら、
君はダンテの「神曲」を読破せねばならない。それが出来ないなら早々に転学すべき
である。
 

さらに問う。奉仕と犠牲の精神はあるか?


医師の仕事はテレビドラマのような格好のいいものではない。重症患者のために連夜の
泊まりこみ、急患のため休日の予定の突然の取り消しなど日常茶飯事だ。死にいたる病に
泣く患者の心に君は添えるか?


君に強く求める。医師の知識不足は許されない。


知識不足のまま医師になると、罪のない患者を死なす。知らない病名の診断は不可能だ。
知らない治療を出来るはずがない。そして自責の念がないままに「あらゆる手を尽くし
ましたが、残念でした」と言って恥じない。

こんな医師になりたくないなら、「よく学び、よく遊び」は許されない。医学生
「よく学び、よく学び」しかないと覚悟せねばならない。 医師国家試験の不合格者は
どの医学校にもいる。全員が合格してもおかしくない医師国家試験に1,2割が落ちる
のは、医師という職業の重い責任の認識の欠落による。君自身や君の最愛の人が重病に
陥った時に、勉強不足の医師にその命を任せられるか?医師には知らざるは許されない。

医師になることは、身震いするほど怖いことだ。

 
最後に君に願う。医師の歓びは二つある。


その1は自分の医療によって健康を回復した患者の歓びがすなわち医師の歓びである。
その2は世のため人のために役立つ医学的発見の歓びである。

今後君が懸命に心技の修養に努め、仏のごとき慈悲心と神のごとき技を兼備する立派な
医師に成長したとしよう。君の神業の恩恵を受けうる患者は何人に達するか?1人の診療
に10分の時間を掛けるとしよう。1日10時間、1年300日、一生50年間働くとすれば延べ90万
人の患者を診られる。多いと思うかもしれない。だが日本の人口の1%未満、世界の人口の
中では無視し得るほど少ない。

インスリン発見前には糖尿病昏睡の患者を前にして医師たちは為すすべがなかった。しかし
バンチングとベストがインスリンを発見して以来、インスリンは彼らが見たこともない世界中
の何億人もの糖尿病患者を救い,今後も救い続ける。

その1の歓びは医師として当然の心構えである。これのみで満足せず、その2の歓びもぜひ
体験したいという強い意志を培って欲しい。心の真の平安をもたらすのは、富でも名声でも
地位でもなく、人のため世のために役立つ何事かを成し遂げたと思える時なのだ。


朝日新聞2002年4月16日号『私の視点』 ―



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医龍の作者は七尾出身だそうです!!