作品のテーマや文脈をよく検証しないで、作品中の一文や一言を抜き出して批判されたら、作家は筆を折るしかないし、世の中のほどんどの童話は絶版になってしまう。

「残酷だから」という理由で、私たちの前から姿を消した昔話は山ほどある。『かちかち山』がいい例だ。

性悪の狸はおじいさんの罠にかかったが、言葉巧みにおばあさんを騙して縄をほどかせ、
まきでおばあさんを殴り殺し、大なべで煮てしまう。狸はおばあさんに化けておじいさんの帰りを待ち、山から帰ってきたおじじさんに鍋を食べさせてしまう。おじいさんがすっかり食べ終わると、狸は正体を現し、「ババ汁食った、ババ汁食った。」と逃げていく…。

殺人の罪を犯した狸は自らの死を持って償ってもらうしかない。だから、狸は兎に騙されて泥の船に乗り、海の底に沈んでしまうのである。勧善懲悪のこの昔話は読んでいて胸がすっきりする。狸は当然の報いを受けたのだ。

現代はどうであろうか。何年か前に、NHKの人形劇では、狸はおばあさんに「いたずら」し「驚かせた」だけで、泥舟が沈むときも「ごめんなさい。もう悪いことはしません」と謝った。すると人の良い兎は、いとも簡単に狸を助けて仲直りしてしまうのである。

もはやこれは、まさに子供騙しの「別のお話」である。子供は大人が思っている以上に狡猾で、抜け目がない。私自身の経験からも、子供を騙すには大変な苦労が必要である。

悪い人がすぐに改心し、みんながすぐに仲良くなるような都合主義の昔話には、二度と見向きもしないだろう。

設問:上記の文章におけるあなたの考えを500字以内で述べなさい。

愛媛大学(法学部)小論文



新「型」書き小論文 総合編 (大学受験ポケットシリーズ)

新「型」書き小論文 総合編 (大学受験ポケットシリーズ)